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第二章 

6話)作戦会議


 その夜、携帯にメールがきた。
 優斗からで『早速俺達が、付き合うことになったって、友達にメールしてくれない?』との事。
 一刻も早く、ストーカーの耳に入れたいためらしい。
 言われるままに、芽生は友達にメールを打った。
 同じグループの中で、噂好きな友達2人にすれば、十分だった。
 次の日、登校した芽生は早速、同じグループの友達からの質問攻めにあったのだった。みんな口々に『いいなぁ。』の一言を受けて、さすがに微妙な気分になる。
(ストーカー対策で、付き合ってるだけなんだけど・・。)
 と、言いたくなるが、優斗の添削するかのような視線を受けて、誰にも言えない。
 昨晩のメールでも、“絶対、友達には付き合ういきさつとか、詳しい事は言わないようにね。”と念を押されていたためだった。一人で抱えこまなければいけなくなった状況は、やっぱりややこしい・・。なんて、実感したのだった。
 昼の休憩時間になると、優斗は芽生の側にやってきて、芽生を指さし、
「ちょっと、借りていい?」
 なんて、極上の笑みを浮かべて、友達に確認するものだから、彼女達は舞い上がった嬌声あげて、
「どうぞ・・。どうぞ。」
 と、はやし立てて芽生を差し出す有様だった。
 二人の関係を、応援モードたっぷりに送り出されて、微妙な笑みしか浮かばない。先に歩く優斗の後姿を追って進むと、昨日、勘違いの告白を受けた非常階段まで行くとそこで足を止めた。
(せめて、友達には、ストーカーの件を言ってもよくない?)
 なんて思って、口を開きかけたら、彼の言葉の方が速かった。
「うまくやってくれてると思うけど、もう少し嬉しそうな顔をしてくれると、もっと現実味がアップすると思うよ。」
 早速、注文を受けた。
「・・あっ・・そう・なの?」
 うめくように答える芽生に、優斗は楽しげに瞳を揺らして
「ストーカーの件だけど、相手の名前とか、何も話していなかったよね。
 ・・・彼女の名前は小林雅(こばやし みやび)隣のクラスの女子生徒。
 知っているよね。
 芽生とは違った感じの可愛い系の女の子で、入学してすぐに、告られて付き合い始めたんだけど、どうも合わないみたいでさ。
 別れを切り出したら、おかしな感じになってしまったんだ。
 複数の女の子と、付き合ったのが、悪かったかも知れないんだけど、どこをどう間違ったのか、本命は自分だって。言い張っちゃって・・。
 だから、芽生一人に絞って、いったん他の子を切った上で、もう一度彼女にも言ってみようと思う。」
 それまで、君にベッタリになっちゃってしまうけど、大丈夫?
 芽生を気遣う優しい瞳に、コクン。とうなずいて、
「付き合ってる事にするんだから、私もそうした方がいいと思う。」
 と答えると、彼は満足げにうなずいた。
「ありがとう。・・・協力してくれると、とても嬉しいよ。ただ、芽生には悪いんだけど、くれぐれも友達にも内緒にね。
 万が一、雅に別れるために君といるなんて事が本人にバレたら、元の子もなくなってしまうから。」
 慎重にね。
 ニッコリ、琥惑的な笑みと共に、先手を打たれてしまった。
 ハハハッと、笑って答えるしかない。
「それと、雅自身には、気をつけてほしいんだ。彼女に話かけられる事があったら、すぐにも僕に言ってくれればいいから。
 これば、僕らの問題だから・・。」
 言われた瞬間、とんでもなく仲間はずれにされた気分になったのは、なぜなのだろうか。
(ストーカー呼ばわりしながらも、雅の事を、想っているんじゃないの?)
 実は二人は今、倦怠期か何かの状態で、彼女の気を引くために、こんな手の込んだことをしてるのでは?
 なんて思ったほどだ。
 なぜなら、小林雅の事は芽生も知っていたから。
 小学校と中学が同じで、一緒に遊んだことがあるし、彼女がストーカーをするような子だと、にわかには思えなかったのだった。
 逆に目の前にいる優斗の方が、信用できないくらいだ。
(複数の女の子と、付き合ってるって言ってたし・・。)
 芽生自身このストーカー対策は、あまり気が進まない方法だった。
(別れたいななら、こんなまどろっこしい方法をとるのではなくて、はっきり口に出していいんじゃないの?)
 と、心の中で思うほどだ。
 多分、他の男子から同じような相談を受けていたら、断っていた案件だろうから・・。それを言えなくするくらいに、彼の雰囲気は独特で、共にいる者を不思議な感覚に陥らせてくれるのだった。
 彼の魅惑的な表情を見ていたいという野次馬的な感情と、面倒に巻き込まれたくないという気持ちが、まるでシーソーのように、上がったり下がったりする。
 今の所は、興味が先に立つ。彼の顔をみていたいという感情が勝っているだろうか。
 だから、芽生は自然に彼の言葉にコクンと、うなずいていた。
 これも彼に惑わされている証拠なのかも知れない。
 続いて、その後も作戦会議に時間を費やして、昼の休憩は終わったのだった。
 午後の授業は滞りなく済んで、放課後になると、当たり前のように優斗が芽生の側にやってくる。
「じゃあ。帰ろうか。」
 当たり前のように誘われて、芽生も頷くと、
「ごめん。先に帰るわね。」
 と、友達に断わって二人で教室を出る。
 芽生の肩越しに、少し興奮気味な小さな叫び声が上がった。おまけに
「うらやましぃ〜。」
 なんて声まで聞こえてくると、肩が落ちる。
(これが“本物の彼”だったら、こんなに嬉しいことないんだけどなあ〜。)
 思わずつぶやく言葉のトーンは、とんでもなく低い。